「この前、とても優しい雰囲気のおばあちゃんが来てくれたんです。
体の痛みが続いてるということで、これはと思う生薬を提案したんですが…
“あら、ちょっと高いわねぇ”って、苦笑いされました。
正直、ちょっと戸惑いました。でも、そのときふと、昔聞いた話を思い出したんです。」
「ある漆職人の話です。
その人の作るお椀は、ひとつ数万円。
ある日、観光客に“たかっ!”って言われたそうです。
でも職人は怒らず、にこっと笑って、こう言ったそうです。」
『うん、確かに“値段”だけ見たら高いかもしれん。
でもこれはね、木を育てるのに20年、乾かすのに5年、塗って乾かして重ねて、それを何十回。
作るのに時間も手間も気持ちも全部込めとるんです。
それだけの歳月と思いが、この形になっとるんです。
それを“高い”と思うか“価値がある”と思うかは、お客さん次第ですわ。』
「その観光客はしばらく黙って、それから静かにお椀を手に取ったそうです。
“こういうものを、大切に持つっていいですね”って。」
「…あの時の私も、そうやって伝えればよかったなと思ったんです。
“高い”って言葉は、拒絶じゃなくて、“迷い”かもしれない。
だったら私は、“なぜこれが価値あるのか”を、丁寧に伝えていきたいなって。」
「“高い”は断りじゃない。価値を伝えるチャンス。」
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